第49回
コリアンレポート

〜裏金産業海外視察 三日目〜

今回掲載されている写真は、クリックしていただければ拡大表示されます。
今回、「ハングル」という表現を多用していますが、文字としてだけでなく、韓国で話されている言葉も「ハングル」としています。あしからずご了承下さい。

 最終日。野球も競馬も買い物も無い、平和な日であるが、今回の最後の目的である、「カジノ」に行く。向かうはシェラトン・グランデ・ウォーカーヒル(以下ウォーカーヒル)。私とスグノレは生涯初のカジノである。

 今まで、国内ではギャンブルというギャンブルは殆んど体験した。競馬は勿論のこと、競輪、競艇、オートレースの公営ギャンブルは全て手を出した。チンチロ、麻雀、カード系も嗜んではいる。しかし、「カジノ」は初めてである。「少年雀鬼 東」に始まって「ギャンブル王子 嵐」、そして「玄人のひとりごと」の中島徹3部作をこよなく愛する私にとって、カジノは憧れであり、行って当然の場所でもあった。そのカジノに、いよいよ足を踏み入れるのである。

 江辺がソウルの主要なターミナルの1つであることは以前述べたが、今回も例外ではない。ウォーカーヒルまで、無料バスが出ているのである。これはステキだ。この条件も含めて江辺に滞在を決めたD.Dの力量は賞賛に値する。後は彼の引きの弱さだけが心配だ。駅から道路を挟んで向かい側にバスターミナルの建物(まあ駅ビルのようなものである)があったので、しばし時間潰しがてら寄る。里帰りか、はたまた逆に江辺に来ているのか、やたら軍人と思しき人が目につく。ヘタに動けない(いや、別にヘタに動く気は無いのだが、何しろ相方にはスグノレがいる…)。彼らを横目に2Fに上がり、本屋に行く。野球観戦の際に入手し損ねた選手名鑑を入手するためだ。

 しかし、カジノを前にこの日も引きの弱さを露見。店が開いていないのである。時間が多少早かったせいもあったのだろうか、単に定休日だったのだろうか。ハングルが読めても意味がわからない我々にはなす術が無かった。諦めて下に降り、とっととバス停に向かう。バス停では1人先客がいたが、我々を合わせてもわずか4人。この日は週も明けて月曜日。さすがに普通の人は仕事や学校があるようで、江辺の駅方面には人の流れができている(ウォーカーヒル行きのバス停はターミナルよりややはずれにあった)。バスを待つ間、今日の打ち合わせ。往きのあの慌しさを回避することも考え、カジノはおよそ4時間(タイムリミット14:00)と決めた。帰りはKALリムジンがウォーカーヒルから出ており、移動は途中の道路が大渋滞していない限り問題は無いのだ。

 バスを待っている我々だが、9月末の秋の気候は薄着の私には肌寒く感じる。日本はまだまだ暑かった記憶があるのだが、韓国は日本より四季がはっきりしているのだろうか。早くバスに乗りたいところだが、このバス停には時刻表が無い。聞くところによると、このバス停に限らず、ソウルのバス停にはどこにも時刻表が無いようである。地下鉄といい、バスといい、来た乗り物に乗る。これが大陸気質なのだろうか。以外とのんびり屋さんである。

 20分は待っただろうか。ようやくバスが来た。ウォーカーヒルはソウルの郊外にあるので、ここからまた時間がしばらくかかる。乗客は少ないようなので、大っぴらに日本語で話していたが、別段珍しくないのだろうか、誰も見向きもしない。外国人が話しているというだけで振り返ってしまう(しかもその後目を合わせようとしない)のは日本人だけであろう。

 さらに20分、小高い丘をバスが登り、ようやくウォーカーヒルに到着。ウォーカーヒルという名前にしては勾配がキツそうだ。だが、森に囲まれ、眼下には漢江が広がるその景色は絶景に値する。郊外とは言え、ここにホテルを建てた人はえらい。

 一度来たことがあるD.Dに案内され、我々は土産物屋にも免税店にも目もくれず、ひたすらカジノを目指す。カジノは地下にあるのでエレベータで。やはり地上には作れないのだろうか、こういうギャンブルの舞台は地下にこそふさわしい。出口を少なくするのも何かあった時の手段の1つなのだろう。地下に着くとすぐに入口を発見。


進化の過程、ではないが…

 カジノ内は写真撮影厳禁なので、ここからは文章中心。

 受付(というか殆んどクロークみたいなもの)に立ち寄り、荷物を預ける。差し当たっては勝負の金だけが必要であるが、パスポートも肌身離さず持っていることにしよう。何しろここは韓国にあって韓国でない、客には韓国人は1人もいない異国なのだから(韓国人は法律上カジノはできない。国内にあるカジノは海外の観光客のためだけにあるといっても過言ではない)。入口でパスポートのチェックがあるかと思ったが、そんな記憶もない。カジノということで正装を必要とするのかとビクビクしていたが、ジーパンでも入れた。かなり寛容である。ディーラーはさすがに正装だったが(当たり前か)。

 ウォーカーヒルには、ルーレット、スロットマシン、バカラ、ブラックジャックなどほぼ一般的なカジノのギャンブルは揃っている。KENOやクラップスは無かったが。D.Dはブラックジャックには絶対の自信を持っており、この日もこれで勝負すると息巻く。スグノレは無難にルーレットから入ることにするというが、まずは周りをグルグルと回って様子を伺う。私はまずはルーレットから。

 ルーレットはチップ1枚2500ウォンなのでかなりお手ごろ、まず最初に手をつけるには無難なギャンブルだろう。端っこに座ってしまったので、0とか00、若い数字には届かない。移動も面倒くさいし、赤や黒のところには届くので、コソコソとやることにする。手持ちから50K出し、20枚購入。こんなもの、すぐに溶けそうであるが、最初だしすぐにとけたらまた追加融資しようと思っていた。姑息に2倍や3倍をあて、わずかに増やしたところでスグノレも参戦。彼は何も考えていないようで、何かと出目を読んでいる。しかも、きちんとルーレットの盤面を見て、どの辺に投げたらどこに入る確率が高いかなど、キッチリ計算して賭けている。なかなかやる。1人で行動させると俄然ヤル気になるところはさんぎょーと一緒か。

 しばらく2人とも粘っていたが、私が35を召し取り、36倍をゲット。これでしばらくは食いつなぐ。対照的にスグノレは例の読みの他、倍率が低いところを確実に当てて枚数を増やす。枚数が少なくなったら2,3倍、多くなったら数字の大きい側(手が届く範囲)と0&00などに賭け、気づいたら1時間以上粘っていた。元手50Kウォンにしては大健闘である。が、途中で無難な賭け方では勝てないことに業を煮やし、強気な攻めに転じるがこれが誤算。前半の善戦がウソのようにアッという間に枚数が減り始める。ここからまた無難に転じるのもバカバカしいので、強気を貫き、ついにゼロになった。溶ける時は早い。いい流れが序盤にあったのに、自ら断ち切ってしまった。

 さすがに流れが悪いので、ここで更に勝負という気にもなれず、席を立つ。スグノレはまだ枚数があるようで、しばらくは持つだろう。トイレに行って体勢を立て直す。ブラックジャックのテーブルに行くと、D.Dが勝負を続けていた。かなり劣勢のようで、顔に覇気が無い。聞くと、メンツに恵まれていないようである。BJはディーラの前に札を貰う人が全員の勝敗を握ることが多く、ここに座ったヘナチョコ日本人が場をかき乱すだけ乱して去っていったとのこと。隣のお姉ちゃんもご立腹のようである。この劣勢を立て直すのには一苦労なようだ。私が話しかけたところで一息ついて席を立つことにした。

 時刻は12時を過ぎ、そろそろ小腹も空いてきた。ここで、昼食タイムといこうとするが、まずはスグノレの様子を探る。と、まだ粘っているようである。感心感心。実は買い足したかもしれないが、そこは探らないことにしよう。お茶できるコーナーがあったのでそこに入る。

 2人で席に座るが、ウエイトレスが慌しく行き来するだけで声をかけても止まる様子すらない。ディーラーには日本語も通じたのだが、ウエイトレスには通じないのだろうか。何回か呼んだところでようやく1人立ち止まり、メニューを持ってきてくれた。大した料理は無かったが、どれも無料のようである。だいぶ気前がいい。で、2人してオムライスを注文しようとすると、「予約はされましたか?」の一言。全く意味がわからん。席に着くのに予約が必要なのだろうか。それとも、予めどこかで予約をしないと飯にありつけないのだろうか。話していくと、どうも後者のようで、食べ物の注文はカジノのテーブル上でするものらしい。よっぽどそっちの方が鬱陶しいと思うのだが、ウォーカーヒルではこれが決まりらしい。仕方なく退散。

 再びBJに参戦。今度は私も参戦。先ほどのテーブルがゲンが悪いので別テーブルにしようとするが、昼を回ったせいか、さすがに混んできた。高いレートのテーブルは空いているのだが、私がやりたいのは低レートである。全く不愉快だ。貧乏人にももう少し席を渡してほしい。と、今まで見ていない裏側のテーブルが誰もいないようだ。レートも最低レートだし、お手軽。早速2人して席に座る。私がシンガリでその前にD.D。こちら側に座ると緊張するが、まあ2人なので怒られたとしてもD.Dにだけであろう。気楽に望むことにする。

 BJは最低レートがチップ1枚10Kウォン。10枚買うだけで100Kである。高い買い物だ。大事に行かなくては。勝負は1枚単位でできるのだが、やれダブルアップだ、やれスプリットだ、やれインシュランスだと結構金はかかる。私はインシュランスをすぐかける弱気な人間なので無駄に金が飛んでいくのも災いしている。

 さて、BJの勝負。2人だけのテーブルなので、お互いがフザけ合っていてもお咎めなし。2人で勝ったら盛り上がるといいことづくめである。先ほどのテーブルで負けが込んでいたD.Dも盛り返す。いつしか、2人してだいぶプラスになっていった。私も勝負どころで勘が冴え、D.Dをアシスト。そのD.Dが引いた次のカードで私がAを引いてBJと流れが絶好調。やはり、ギャンブルは熱くなってはいけないものだ。冷静に、冷静に。

 と、ここで1人ギャンブラーが加わる。喋りからして中国人であるが、顔は「コリアンレポート」編集長の辺真一にそっくりな人だ。これからは辺さんと呼ぶことにする。この辺さんが当然のようにディーラーから向かって右側(シンガリから遠い方)に座る。しかしこの人、いきなり何十万ウォンを出して高額のチップを購入。すでにレートとテーブルが合っていない。増してや、我々2人は1枚1万ウォンのチップで姑息に勝負しているのに、辺さんは1回の勝負で何十万ウォンの勝負だ。しかもあまり自分が文句を言われない側に座っている。

 辺さん、1回の勝負額も熱が、その1回1回も相当熱い。熱いというか、ツキが太い。16から平気で5をツモったり、Aでスプリットしたと思えば2つともBJだったり、別のAのスプリットの時はさらにAをツモって12になっているのに相手がバーストして勝ったりと、純粋にギャラリーに徹していたら愉快なことこの上ない。が、今のシチュエーションは私がシンガリでディーラーの手牌にまで気を配らなければいけない立場である。加えて、辺さんの1回の勝負が熱く、ヘタを打てない妙なプレッシャーも受ける。

 なるべくスタンスを変えず、意識せずにゲームを続ける我々だが、好調さは相変わらずで、まだ私の立場を弁えた博打の打ち方に、3人して稼ぐ。途中、17から私が4を引いて、相手を負けさせる(16→バースト)ファインプレーも演じ、辺さんからは「グッジョブ!!」のお声。いやいや、編集長の方がよっぽどグッジョブ。そう思うんなら席代われ。こうして3人してだいぶ懐も気持ちも温まってきたのだが…。

 また1人、参加者が増えた。辺さんと普通に会話しているので中国人だろう。辺さんより幾らか年上の感じがする人であるが、これがまた額が違う。今度は辺さんの何倍もの額を購入し、1回の勝負でもチップ(当然我々が購入したチップとは額の違うチップ)をうず高く積んでいる。華僑ってそんなに儲かるのか(いや、彼らが華僑かどうか不明だが)。後に来た人は金持ちなので金さんと呼ぶことにする。断じて総書記ではない。

 この金さん辺さんのコンビが2人で徒党を組んで太い賭け方をするからたまらない。1人ならまだしも、2人となったら更に強いプレッシャーが私を襲う。無難なゲームをこなすことだけが脳をよぎり、楽しむ余裕がなくなった。それでもしばらくは耐えてきたのだが、ここでルーレットから来たスグノレが参戦。高校時代に昼休みアホになるほどやっていた私はまだ本当に嗜む程度は知っているが、スグノレはズブの素人である。その崩壊劇はすぐに訪れた。

 とにかく、スグノレが足を引っ張るのである。ルールは知っているものの、セオリーはまるで知らない彼である。我々3人の卓ならまだしも、辺さんと金さんのコンビが同卓にいる。そして彼らに対しても、我々に対してもセオリーを無視した(知らないのでしょうがない)打ち方をし、彼らの持ち金を目減りさせてしまう失態を演じてしまうのだった。何も知らずに入ってきたので同情の余地は多分にあるし、華僑の2人組も高いレートのテーブルに行けばそれですむことなのだが、彼らはとにかく責任を担う役柄を嫌い、どの卓でもその右側に座りたがるのだからタチが悪い。途中ですごーく罵倒されたのだが、当然中国語なので何を言っているか不明であるが、その雰囲気から相当怒っているのがわかる。額が額だけに、怒らせたままだとヤバイ。昼食を注文し、スグノレのBJのチップ分が溶けた時点で早々と退散した。

 昼食時には反省会。スグノレに対して無碍に怒ることはできないが、いた仕方ない。前日、ホテルのPCでカジノ攻略法を目を皿のようにして見ていたスグノレだったが、BJはチェックしていなかったようだ。次回、あるかどうかわからないが、もし行く機会があれば勝ち負けになったルーレットで押すべきだと推奨しておくにとどまった。対してD.Dと私はそれなりに無難な結果。私はBJは負けなかったが、ルーレットの負け分だけトータルも負け。しかし前日の競馬に比べても大差ない負けであったし、最終日ゆえに移動にかかる費用以外はすべてつぎ込むぐらいの勢いで挑んだカジノである。ほぼ引き分けに等しい(と自分では思う)。

 昼食後は時間もなく、あまりギャンブルにつぎ込む時間もなく、多少参加したのみで換金をし、帰ることにした。ウォーカーヒルではやや手数料が高いがここでも円⇔ウォンの両替ができる。チップから換金する場所の横に両替所があるのだが、そこに行ってレートを見て愕然。2日前、銀行で両替した時よりも安いレートでウォンを買うことができるのである。これには一同声も出ず。この2日間に日本で一体何があったのだろうか。宿で見たニュースでは確かに円高の話はしていたが、それでもあまりに急な変動である。

 出る時に日本からD.Dが持ってきたクーポンを見せてウォーカーヒルのキーホルダーをゲット。カジノのチップの形をしており、なかなか良さげな品である。


巾着付き。なかなかオシャレ

 ウォーカーヒルでKALリムジンのチケットを買い、そのままバスに乗る。終いには神経をすり減らしたカジノだったが、これもまたいい思い出である。しかし、仁川までの道のりは相変わらず長い。時間もまだ14時15時レベルなので眠くもなく、ずっと話をしていた。多くは思い出話だったが、所々ではスグノレに対してのダメ出し。振り回されたと言えば言葉が悪いが、今回の旅はスグノレ無しでは語れない。

 仁川空港で少し早い夕食。最後に韓国らしいものを食そうと思い、冷麺とユッケジャンで迷った挙句ユッケジャンを選択。しばらく待って来た料理(セルフサービスだったので、正確には「取りに行った」だが)を見てびっくり。思ったよりスープが赤い。ユッケジャンは確か辛いスープだったと認識してはいるが、どう見ても想像以上に赤いのである。シャア専用か?古今東西、「色の赤い食べ物=辛い」と相場が決まっているし、そんなことは百も承知でオーダしたメニューだ。ましてここは韓国。キムチを例に挙げるまでもなく、料理に唐辛子がオンパレードの国である。わさびやしょうがなど、揮発性の辛さは問題ない私だが、さすがにここまで赤いものは抵抗がある。いまさら別の食べ物は注文できないので、意を決して口に入れる。































 辛い!!


 ハンパな辛さではない。スマトラカレーを食べた南倍南の気持ちがよくわかる。しかし私は玄人ではないので無理はせず、辛いもは辛いと言う。人間、追い詰められると素直になるものである。水を汲む場所がすぐ近くでよかった。しかし、付け合せのサラダを食べても、D.Dからもらった味噌汁を飲んでも、スグノレの冷麺のダシ(酢を大量に入れられたが)を飲んでも、何をしても辛さは引かない。それほど激しい辛さである。最後の最後に地雷を踏んだ気分。3日間の楽しい思い出が思いっきり吹き飛んだ。

 空港で一通り買い物もし、有給を使った分会社に義理立てて土産も買い、最後に未練たらしく本屋に立ち寄りまだ野球名鑑を探しに行き、無いのでハングルの「名探偵コナン」も購入した(サッパリ読めない)。帰りは往きの反省が生き、時間でオタオタすることは無かったものの、疲れて飛行機内では離陸直後に完全に熟睡。起きたらもう関空だった。関空では土産を分配し(ノリとキムチは私が一括して持っていたため)、それぞれの帰途に着いたのである。


Next Conan's Hint!! ってわかるか!!

 異国での行動がいかに制限されるか、準備を怠るとどういう目に会うか、行くメンツによってどれだけ頭を使うか。様々なことを学習して終了した今回の韓国視察。裏金産業としては得るものはカジノの実体験ぐらいしかなかったが、これはこれで次回からのギャンブルに生かせるかもしれないいい体験である。スグノレも次回は学習してくることだろう。「電車降り忘れ」という大ファインプレーももう無いことを祈る。D.Dは今回の旅の準備に尽力していただいたが、金の絡むところでのいつもの引きの弱さが無く、読者としては物足りなかったことだろう。ここに書ききれない部分でもいっぱい祭は起きていたのだが、メンツ的にどんなネタで祭を起こしていたのか想像していただければそれで結構。思い浮かんだものからそんなに遠くないこと、要するにしょーもないことで盛り上がっていたのだが、こればっかりは現場にいないと臨場感が伝わらない。国内外を問わず、裏金産業としてもこれからもグローバルな展開を期待しつつ、この3回分のエッセイを今回の視察レポートに代え、筆を置くことにしよう。


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