第83回
The deep cruise

 関西に住んで8年半、うち大阪に住んで約3年半。人生のうち関西で暮らすウェイトが日に日に増していく今日。だが、「関西」は広い。まだまだ行っていない場所ややっていないことが多すぎる。

 すっかりエッセイから旅行記にすり変わっている「八方破れ被れ」であるが、今回もやはり企画モノ。関西の中でもずっと住んでいる大阪市で、まだ乗りこなせていない乗り物があるのだ。それは。ただ、搦手が大好きな裏金産業のこと、当然のように「水上バス」でもなければ「サンタマリア」でもない。市営の渡船場である。

 存在自体を知らなかった私だが、例によって我らが社長のさんぎょーがネタとして持ってきた、いわば「持ち込み企画」だ(但し裏金産業の企画は9割がさんぎょーの持ち込み企画であるが)。市民の隠れた足として活躍している渡船を、大阪市民である私が乗ったこと無いというのは問題だ。存在を知った以上、乗らなくてはいけない。巻き添え2名(D.D、すぐのれ。敬称略)を伴い、4名でいざ渡船の旅へ。

渡船場の所在地

 大阪の渡船場は全部で8箇所。殆んどが市内の南側に位置し、安治川、尻無川、そして木津川に渡されている。阪急沿線に住まいのある参加者は、まず南側に行くことからはじめないといけない。

 ただ、今回は1つ寄り道を。場所は南海汐見橋駅である。汐見橋線(正式には高野線の一部)は南海の中でもローカル色が強い路線で、その中でもさらに汐見橋駅(汐見橋線始点)は風情あふれる駅舎があるのである。阪神電車が西九条から難波まで阪神西大阪線を延伸するが、その際に中間駅の1つとなる駅である。それに関連するかどうかは不明だが、この駅舎が相当古く、いつ無くなるかわからないものであることと、まあ今回は寄りやすい方かな、ぐらいの感覚で寄ってみることになった。

 梅田 10:00 

 8箇所+1箇所と少なくはない箇所のため、昼前の10時に梅田集合。早めに着いたので今日一日お世話になるであろうバスの路線図をもらうために案内所に。渡船が目的なので目的地は例外なく川沿いであり、近くに電車(地下鉄含む)の駅がない場合が多いためだ。

 4人集合の後は、とりあえず切符の手配。PiTaPaを所持している私とさんぎょーはPiTaPaで、持っていない二人は1日乗車券(大阪市営交通の乗車券なので、地下鉄もバスもどちらも乗れる)を購入。バスに何回乗るかわからないため、ペイできないと判断したPiTaPa所持の二人は、後でとある事件に巻き込まれるのだがそれはお楽しみに。

 さて、まず目的地として寄り道の汐見橋に。地下鉄桜川駅のそばであるので、梅田から地下鉄で充分行けるのであるが、千日前線にも御堂筋線にも乗った経験がある連中なので、新鮮さを求めてバス移動。55系統、梅田→鶴町4丁目行に乗車。

 南海汐見橋駅 10:45 

 乗車までに時間がかかり、さらにバス移動が都合20分ほど。着いた時には10:45。バス停は地下鉄桜川とあまりにそのまま。ここから徒歩で2分ほどで早速汐見橋駅に到着。梅田まで地下鉄で来ていた私はここで恩恵が。大阪市営交通は、地下鉄→バスの乗り継ぎだと割引制度があるのである。この路線は、本当ならば200円のところを100円で済んだ。これは1日乗車券では無い恩恵である。

 駅舎も古いが、この駅のすごいところは昔の観光案内図が現役で掲げてあるところ。昭和30年代の作でかなり痛んでいるのだが、さすがに50年前の案内図がそのままあるのは珍しい。これだけでも見る価値充分。もちろん、50年前のものなので現代では役に立たない。また、券売機横には昔の名残で「乗車駅証明書」発券機があった。現在は切符を普通に買えるので必要は無いなずなのだが…。

南海汐見橋駅
観光案内図
昭和の証拠
乗車駅証明書

 電車は30分に1本。次は11:10の模様。せっかく乗ったことのない汐見橋線に乗るチャンスができたということで、次は電車移動。いきなり1日乗車券の恩恵を無視する一行。25分待ちだが、次の目的地は(25分待ったとしても)電車で行った方が早そうだという結論に達する。

 駅前は延伸工事のためそこかしこが掘り返され、せき止められていた。完成は2009年らしいが、一体このあたりはどういった仕上がりになるのか。ちなみに延伸されると汐見橋付近は地下を走ることになるのだが、それは内緒。

 出発5分前、電車がホームに来た。乗客人数あてクイズを即開催。D.Dが「6人!」と解答したが、残念ながら4人だった。2/3。しかし諦めないD.D、「運転手と車掌を入れれば6人だ」とコメント。後にワンマン電車なので5人だとわかると苦笑するしかなかった。乗客の1人がコテコテの阪神ファンの格好をしており、ここで初めて大阪ドーム(京セラドーム大阪)が近いことを知る。まだまだ大阪市の南側は土地関係がよくわからん。

 汐見橋線は津守駅まで乗車。駅は3つ。そのため、このローカル線も乗車時間は結局わずか。走る区間はこれがホンマに大都市大阪か、と思うくらいのどか。

 南海津守駅 11:17 

 津守駅到着。30分に1本のローカル線の駅らしく、駅舎はプレハブ。自動改札ではあったが、有人駅だったのに逆に驚いた。おせっかいながら南海の経費の問題を心配してしまう。

南海津守駅
駅舎。なぜか仮駅舎っぽいテイスト

 ここから西の方に木津川まで歩いていき、いよいよ渡船である。まず最初の目的地は、駅から最寄の渡船場である落合上渡船場に。そこから南下して次の落合下渡船場と合わせて2つを早速制覇してしまう作戦だ。ちなみにこの2つが今回の目的地のうち最も北に位置するので、あとは川を南下する形にしていけば、効率がいいというすばらしい計画である。

落合上/下渡船

 が、10時に梅田を出て1時間以上経っているのに、いまだ1つも乗船していないという体たらくぶりは明らかに計画性が無いもの。いつもの我々のキャラではあるが、さすがに日が暮れてまでセコセコやる気もない。いつまで船があるかもよく知らないし、我々の都合だけでなんとかなる問題でもないのだ。

 さっそく歩く。とりあえず西の方、という目印もへったくれもなく歩く。駅前には西成公園、という公園があり、これを横切る形になるはずなのだが、公園に沿うように遊歩道があったのでここを歩く。しばらくすると工場地帯に。まあ方角はわかるが周りの景色は変わり映えしないという歩いてても観光目当てでは魅力が皆無の地域である。さらに歩くと木津川と思しき川が見えそうな場所(まだ川は見えてない)にぶつかるが、どこにも渡船場らしきものがない。迷うはずが無いのだが、川沿い(と思しき道)を歩いていると、ようやく渡船場が見つかる。が、そこに書かれていたのは

落合渡船場

 なぜか川下の落合下渡船場。早速計画が崩れる一行。4人が4人ともちゃんと方角を定めていないことがよくわかる一件である。

 落合下渡船場 11:39 

 まあここまで来て乗らずに先に落合上から、というのはもう意味が無いので仕方なく落合下から乗船することに。時刻表を見ると、15分に1本あるらしい。次の運航は11:45。ちょっと待つだけである。が、今のところ乗船客が一人もおらず。このあたりの川幅はおよそ150mで向こうははっきり見える距離だが対岸にも人影は見えない。要するに、両岸の渡船場で客が我々しかいないのである。果たして渡船は本当に需要があるのか、そもそも45分にちゃんと運航するのか。勝手に休航にならないことを祈るばかりである。輪をかけて不安に陥らせるのが、船が対岸にしか無いことである。45分運航なのに、こちらに来る様子はまるでない。もちろん、船を運航する人(この場合は航海士ではなく何ていうんだろうか…)の姿も見えない。

 40分を過ぎ、ようやく対岸にチラホラ人が見える。よかった、さすがに我々だけではなさそうだ。休航という最悪の事態は免れそうである。こちら側にも1人。ただ、姿が見える全員に、我々に無い特徴が見える。それは、自転車に乗っていることである。みんな自転車。徒歩は我々だけ。渡船場もちゃんと自転車が通れるような回りしろもある。渡船は住民にとって、自転車を使っての乗船がデフォルトのようだ。考えてみれば、付近にバスが走っていない渡船場も多く、徒歩で対岸に行ってもそこから足が無い。我々は乗船が目的だが、他の方々は乗船は交通手段なのである。

 そうこうしているうちにもう1分前。しかし、まだこちらに船は無い。いくらなんでもそれはおかしい。バスのように遅延運行する外的要因が無く、運転手の裁量1つで決まるからだ。だが、実際に時間になっても船は対岸にいる。これが何を意味するのか、素人4人衆ではすぐ謎が解けなかった。

 ようやく謎が解けたのはもう一度時刻表を見た時。上の方にちっちゃく、大正区側発とあるではないか(今いるのは西成区)。つまりここから読み取れるのは、この時刻表は両岸共通で、さらに船は普段は同じ岸にいる、ということである。これならここで対岸にずっといる船の理由もわかるし、1分前になってもこちらに船が無い理由もわかる。わかってしまえば何てことは無いのだが、わかるまでは不思議でしょうがない、渡船事情である。ちなみにこの事情の発端となった証拠である時刻表の写真が無いのは、カメラマンである私が単に撮り忘れただけである。読者諸君、申し訳ない。各自見に行っておくれ。

 そして11:45。船が動き出す。渡船近くにあった小屋から2人が出てきて手際よくエンジンをかけ、サクっと横断。約30秒でこちら側に着岸し、向こう岸で乗せた乗客を降ろし、さらにこちら側の客(我々+自転車のおっちゃん)を乗せ、すぐに対岸に戻る。運航が終わるとすぐにエンジンを切り、係の人は小屋に帰っていく。見事な無駄の無い一連の動作である。費用対効果は置いといて、人件費とエネルギー費は削減に努力していると見てよいだろう。

 船は4〜50人乗れる大きさ。自転車を乗せることを想定しているのだろう。「信貴造船所」の文字があり、ああ、信貴山(しぎさん)の方で造船しとるんやなぁ、と思っていると、すぐのれがこの字を「のぶたか」と読んでしまう。最年長の思わぬ失態。これ以降、すぐのれの仇名が「のぶたか」になったのは言うまでもない。

岸を離れた直後

 次は当初の予定どおり落合上の方に。今度は北上。同じ地名がついているぐらいだから場所は近いはず。が、川沿いを歩いていても渡船場がわからない。上記の写真を見ていただければなんとなくわかるかもしれないが、堤防が異常に高いので、周囲から川の状況がよくわからないのである。渡船場は大きな看板があるわけでもなく、わからない人にとっては見つけづらい。そんな悪い条件も重なってしまった。

 しばらくするとサイレンの音。おそらく正午を告げるものだろう。先ほどの落合下渡船場であ15分に1本の運航だっただけに、落合上でもほぼ同様の運航状況であることは想像に難くない。ということは、正午の便には乗れない、ということなのである。集合から2時間、まだ乗船は1回。本当に大丈夫か!?

 落合上渡船場 12:03 

 落合上渡船場に着いたのは、正午をわずかに過ぎた頃。時刻表を確認すると、予想通り前の便は正午である。たった3分遅れなのに、先ほどまで船が運航していた形跡すら見えなくなっている。なんという手際のよさ。公務員とは思えない仕事ぶりに感心してしまう(船の運航は大阪市建設局がやっているため、運転手を含め渡船に携わる人は大阪市の職員である)。

 ちなみに渡船場の手がかりは、写真のようなたった1枚の小さな看板。いかに発見が難しい(特に遠くからの発見が困難)かがおわかりいただけるかと思う。

落合上渡船場

 ここから10分ほど待つ。今度は不安になることもない。船もこちら側だし、何より一度乗ったことにより勝手がわかっている。次々やってくる自転車の方々にもうろたえない。この渡船場では、結局10人近くが乗船したが、今回も我々以外は全員自転車持参であった。

 落合上渡船場 12:15 

 無事2つ目もクリア。次なる目的地は千本松渡船場。より大阪湾河口に近い方。

 12時を過ぎたことにより、4人とも空腹を訴える。千本松への移動手段をバスと決め、バス停に向かう一行。すると、目線の先に1軒の飲食店と思しき建屋。口々に何の店かを言い出す。和風な建屋であることから和食だ、という意見と、いや、「うどん」という幟が見えるからうどん屋だ、という意見。さらに、「回転寿司」だという意見も。近くによるとくら寿司であることがわかり、結局みんな正解やん、というオチに。が、ここが昼飯時ということもありすんなり席に座れそうもない。どれだけ時間を取られるかわからない店に入るのも気が引けるし、何よりあと6箇所も残っているという事実が足を遠ざける。結局この店には入らず。近くにあるバス停に行くことに。

 北津守バス停 12:25 

 本日2度目のバス。29系統で北津守から千本松渡船場の最寄バス停である南津守四丁目に。バスは混雑しており座れなかったが、短い区間のため我慢。ということで見どころなし。

 南津守四丁目バス停 12:45 

 バスを下車。今度は乗り継ぎ扱いではなく普通に200円。新なにわ筋沿いのため、ある程度食べる場所はありそうなので、ここで昼食を取ることに。いかにも街の定食屋さん、といった感じの店に入ったが、なかなか美味しい。しかも腹いっぱい食べられて値段も安い(600円程度)。近所に欲しい店だ。この店目当てにここに住むことはまず無いが。

 ここからはまた川に向かって歩く。千本松渡船場は、上に千本松大橋という非常に大きな橋がかかっており、今までの2つの渡船場に比べて見つけやすさは歴然。「大橋」言うぐらいだから車の交通量も多いので大きな道を歩けばいいだけである。

 千本松渡船場 13:25 

 前述どおり、渡船場はすぐに見つかる。前2つより河口側にあるということで、さすがに対岸までの距離が長い。従って、需要も多いようだ。今までより多く乗客が待っている。

千本松渡船
千本松渡船場

 運航は例によって15分間隔。13:30に対岸を離岸したが、ここは川幅が広いために1分や2分では来ない。乗船時間が長いのである。

上部にあるのが千本松大橋

 千本松大橋の方は、写真に見られるように車だとしても2回旋回をしてから渡る形式になっている。そのため、川面から欄干までの高さが異常に高いのが特徴である。河口付近にある橋のため、大きな船が入れるように、との配慮からなるもので、橋には実際に満潮時水面から33mの表記がある。大層な船でも充分に入れる高さであるが、すぐのれが「3.3m」と読み誤ったため事件に。この高さで満潮時に3.3mしか残っていなければ、あるとすればものすごい温暖化現象である。いつものように先輩として尊敬できない発言だ。

 ここまで読んで、疑問に思った方はいるだろうか。実は私もここに来る前に思った。橋があるのに、何故渡船もあるのか、である。だが、この橋を見ていただければおわかりだろう。老体には堪える高さである。33mの高さを渡る橋では、高所恐怖症の人はまず間違いなく渡れまい。さらに2回旋回して渡る、ということは対岸で2回旋回して平地に戻る、ということである。総走行距離が想像以上に長い。船は15分間隔ではあるが、とてもじゃないが15分では対岸に行けないであろう。市民が渡船を廃止せずに残してくれ、と訴えたのは間違いない。私がこの近所の住民でもそうする。

 こうして3つ目の渡船が終了。あと5つ。

 千本松橋西詰バス停 13:38 

 近くにあるバス停から次の目的地、木津川渡船場に向かう。そんなに遠くない場所なのだが、バスがすぐ来たので乗車。わずか2,3個のバス停を経て大運橋通で下車。乗車時間4分。前回の津守でのバス乗車から、今度はバス→バスの連絡なので、無料になるということを私とさんぎょーは予め知っていた。バス下車時、PiTaPaをあてて運賃が0円えあることを確認。二人ではしゃぐ。すると、次に信じられないことが。バスの運転手、一度閉めたドアをわざわざ開けて

ホンマはタダちゃうよ!!

 と吐き捨てる。いや、無料なのは乗り継ぎだから、と我々も知ってますが…わざわざドア開けてマイクで外に聞こえるように言わんでもええやんか。てっきり忘れ物をしたのかと思った(すぐのれは降り損ねた人がいたと思ったらしい)。大阪市営バス、恐るべし。

 大運橋通バス停 13:42 

 大運橋通からは徒歩。ここは完全に工業地帯。最初の落合あたりにあった町工場、という感じではなく、中山製鋼所の本社や日立造船など、かなり大掛かりな工場である。製鋼所周りは空気が悪く、ここが海沿いであることを感じさせない。だが、千本松から1本で行けるバスもなく、流しのタクシーがいるような場所でもない。なんとしても歩くしかないのである。

 中山製鋼所には、そこかしこに同じような看板が。

S・Q・CをJK活動で

 一見すると標語のようだが、意味がわからん。おそらく、SQCは何かの略なのだろう、ということで意見は一致。また、その中でQはQualityだろうな、ということも満場一致。あとはSとCである。Cはしばらく考えてCostに辿りついたが、SはSalesかSecurityに意見が分かれる。どっちでも合ってる気はするのだが、製鋼所の工場でSalesはおかしい気もする。そうこうしているうちにServiceちゃうか、という意見も出始め、さらにSafetyは?と派生が始まる。まあそれはええわ。とにかく問題はJKの方。こちらは皆目検討がつかない。ただのJKじゃない。JK「活動」である。

 この結論はここで話合ってても出ないのは間違いない(正解がわからないから)。ただ、暇つぶしにはなった。ある程度距離があった道のりだったが、木津川渡船場に到着である。

 木津川渡船場 14:04 

 木津川渡船場は、千本松よりさらに河口側。木津川大橋がかかる袂にある。河口側ということは、さらに大きな船が通る可能性もあり、必然的に橋の高さも先ほどより高い。見えた螺旋は3回転。高さはゆうに40mはある。おっちゃんが一人歩いていったが、さすがに着いていく気力も無い。逆にこのおっちゃんは何故に船に乗らないのだろうか。

 大阪市内にある渡船場は、7つが大阪市建設局の管轄なのだが、この木津川渡船場のみ大阪市港湾局の管轄である。そのため、15分間隔というキッチリしたダイヤではなく、不規則(運航間隔が等間隔ではない)である。だいたいが2〜30分程度の間隔があり、その他のところより広いのだが、次の運航は14:15と比較的早く来るようだ。

 ただ、問題が1つ。今は木津川の北側におりここで渡船すると南側に出るのだが、この木津川渡船場が8つのうち最南端に位置するのである。つまり、ここを終えたら北側に行きたいにも関わらず、乗船のためには南側に行かなくてはいけないという歯がゆい事態なのだ。歩いて木津川大橋を渡る気も無い、戻るためにバスを乗るにはバス停が遠い。迷った挙句、ものぐさ4人衆が決めた行動は、往復するという至極単純なものだった。どうせ無料なら何回乗っても文句を言われることはないやろ、という理屈である。

 ヒマな時間を利用して、携帯で中山製鋼所の例の標語の答えを探す。すると、SはSafety、JKは「自己管理」だと判明。もっと練られた標語かと思ったが、まあ標語なんてこんなものか。JKと言われてフリップフロップしか浮かばない私は骨の髄までエンジニア。

 14:15。船がやってくる。今までの中で一番対岸まで遠い。従って乗船時間も長い。風も冷たい。おそらく水深も深い。そんな中、無駄に往復である。往路終了後、対岸に着いた後に「もう1回乗っていいですか?」と聞くとあっさりOK。全く驚かないあの口ぶりからすると、おそらく往復で乗る人が少なくなさそうだ。

木津川渡船
木津川渡船場
船内から。ほとんど海みたい

 木津川渡船場 14:22 

 再び木津川渡船場北詰。次はまたここから徒歩で行けるレベルの船町渡船場に。渡船場までの道はトラックもゆうに通れる大きな道であったが、あるところで不意に行き止まりになっており、その端が渡船場になっている。最後の方には大きい道路は必要ないと思うが、渡船場があるということを知らない人には奇怪に映るに違いない。あ、そもそも関係者以外はこんなところに来ないし渡船を使わないか。

 船町渡船場 14:38 

 河口からやや離れたことで、川幅も最初の落合あたりと同じくらいに。木津川渡船は船から身を乗り出せなかったが、100m程度なら恐怖心も無いのが不思議だ。

船町渡船
船町渡船場

 南から北へ。今度は効率の良い移動。

 船町渡船場 14:47 

 いよいよあと3つ。あまりにも遅かったスタートダッシュとはうってかわって、午後になってから軽快な足取り。次は千歳渡船場。ここからだと微妙な距離である。

 船町からやや大きい通りに出た一行、鶴町二丁目のバス停を見つける。乗車したがる1日乗車券保持者と乗車不要論を唱えるチームPiTaPa。結論が出ないまま、バスが来てしまった。乗る2人と止める2人。結局、ケンカ別れとなり、チームPiTaPaは歩いていくことになった。

 乗車不要論は運賃をケチっているのは勿論あるが、実際の行程にも問題があったからである。徒歩で行くと、ほぼ真っ直ぐ歩くだけで到着するのだが、バスは大正通という道を大きく旋回する形で遠回りして行くことになる。またバス停から渡船場までも少し歩かないといけない。ヨーイドンでスタートするとそんなに変わらないのではないか、という結論である。が、チームPiTaPaにとって不運なのは、バスが既に来ていてもう2人が乗ってることである。従って、「バスを待つ時間」というこちらのアドバンテージがほぼゼロ。どう考えても向こうの方が早い。

 とはいえ、次のバスを待って乗るのは愚行なので歩いていくことに。商店街を突っ切る形であり、スーパーやら散髪屋やらがある中に住宅(団地)があったりと、地域密着型である。途中にあった公園には山ほど自転車が停まり、山ほど子供がいた(3〜40人くらい)。これだけ賑やかだと犯罪も起こりにくいだろう。騒がしい、と言われればそうなのだが、こういう街並みは嫌いではない。

 途中で相方のさんぎょーの足が止まる。臭いからしてうんこを踏んだらしい。ついてない。というより汚い。200円ケチったばかりにとんでもないツケが来たものだ。道中なんとか取ろうとツイスト踊りながら歩くが、これが目的地までたどり着くのに時間がかかった主たる原因になろうとは。

 この角を曲がれば渡船場が見える、というところで前方に見慣れた2人組を発見。やはりこちらが遅かったか。バスを待つ時間と糞の分でこちらの敗北が決定。とはいえ、ハンデ無しでタッチの差だったことを考えればあながち間違った選択でもなかっただろう。

 千歳渡船場 15:25 

 千歳渡船場の上にあるのは新千歳橋。前の2つの大橋ほど大きくはなく、旋回もない。よって高さもそれほど高くはなさそうである。とはいえ、おそらく15分はかかる。見ている限りでは徒歩で渡る人も少なくなく、今までの2つを入れた3つの橋の中では一番渡ろうかという気にさせる橋である。まあ今回の目的は乗船であるし、船があるから橋は渡らないと思うが、いつなくなってもおかしくなさそう。

千歳渡船
千歳渡船場

 千歳渡船場 15:25 

 次はまた徒歩圏の甚兵衛渡船場。だが、15時半といい時間になってきたので4人とも競馬の結果が気になる。4人中2人がワンセグチューナ内蔵の携帯を持っているので、ここで歩きながら観戦。結果はボロボロ。見るんじゃなかった。ていうか馬券買うんじゃなかった。

 ここからは工場と住宅が入り混じっている下町。ただテニスコートがあったりしてなかなかいい町だ。潮風が気にならないのであれば住むにも悪くない場所ではあるが、地下鉄もJRも遠いのが玉に瑕。車が手放せない場所であれば、なおさら潮風が気になる。

 競馬を見ながらだったので時間経過が苦にならず、比較的アッサリ着いた印象。1kmはあったはずなので、決して近いわけではないのだが、時間がよかったか。

 甚兵衛渡船場 15:45 

 甚兵衛渡船場に到着した時に、ドヤドヤと人が出てきた。ちょうど船が行ったところらしい。時刻は15:45。さもありなん、といった感じでもう仕方ない。15分待つことにする。4月以降であれば、こんな時野球でも見られるのだろうが、生憎この日は3月なのでオープン戦しかやってない。競馬も終わりかけで予想しようにも最終レースしか残っていない。暇つぶしに持ってきた野球名鑑がこういう時に役に立つ。さすがは野球好き。自分で自分をほめたい。

 だが、この渡船場は他と違った、次から次へと人が来るのである。もちろん、みんな自転車を携えて。船は48人乗りなのだが、自転車が多いとそれだけ定員も少なくなる。が、人が途絶える気配が全くない。自転車を持ってない我々が非常に場違いな気がしてくる。まあ逆に言えば4人分の隙間さえあれば我々は乗れるし、そもそも前の便が行ってすぐの到着だったため、必然的に列は前の方であるから、乗りっぱぐれることは無さそうだ。列後方の方々が心配。

 船が来た。対岸からはやはりかなりの人が乗っている。ほぼ満員。彼らが降り、今度は我々が乗船。定員ギリギリになったが、なんとか全員が乗船。最後は自転車の詰め方を工夫し、苦心して乗せていた。この渡船場はどうやら人気らしい。幅100m弱の川だが、自転車にはそれが茨の道なのである。

甚兵衛渡船
甚兵衛渡船場

 甚兵衛渡船場 16:02 

 さて、7つ目の甚兵衛が終了し、いよいよ残るはあと1つ、天保山渡船場のみである。今まで木津川、尻無川と比較的南側の川だったのだが、最後は唯一の安治川。場所が遠いのである。甚兵衛で船を待つ間、4人でミーティングをした際に出た案はバスの乗り継ぎだったのだが、安治川というキーワードでふとある場所が浮かぶ。安治川トンネルである。

 安治川トンネルとは、その名の通り安治川の川底の下を掘ったトンネルである。川底の下を通るトンネルは天井川でない限り珍しい。通常はトンネルではなく橋をかけてしまうからである。が、安治川は古くから船交通の要所で、橋をかけるにもある程度の高さ(船が通れるほど)が必要になる。じゃあ渡船にすればいいじゃないか、という意見があるかもしれない。実際にここはかつて源兵衛渡船という渡船場であったのだが、船の往来が多いのに対し、川を横断する形で運航する渡船は厄介者であり、廃止されてしまったのである。言わば苦肉の策なのであるが、このトンネル、地下までエレベータで降り、川底を渡ってまたエレベータで戻る、という形式なのだが、驚くことに以前は車も通っていた。つまり、車用のエレベータもあるのである(現在はエレベータは残っているが運行はしていない)。

 また、トンネルという形式上、地下道であることから治安も問題となっている。エレベータは有人でエレベータボーイ(おっちゃんだが)が両岸に配置されている。エレベータは夜中には運行されておらず、その際にはおらんようになるのだが、市の財政圧迫から人件費の見直しが入り、昼間でも係員を配置せずに監視カメラで対応する、という案が現在大阪市で挙がっている。治安の問題から住民は反対しているが、果たしてどうなることやら。

 話を元に戻そう。そんな特異なトンネルである安治川トンネルだが、4人のうち私だけが通ったことが無かった。是非行きたい、という話になりトンネル経由の道を探ることに。できたルートがバスで安治川トンネル口まで行き、トンネルで川を渡った先の西九条駅からゆめ咲線で桜島へ。そこから天保山方面に乗船する、というもの。天保山に行けば地下鉄の中央線があり、そこからはもう晩飯にどこへ行くにも利便性が高い。

 ということで、まずはバスに。近くにはバス停が無いのでみなと通まで歩いていくことに。ちなみにみなと通を西に行くと天保山であるので、安治川トンネルに行きたいとはいえ、乗船が目的の割には方向は真逆である。

 夕凪バス停 16:17 

 目的のバス停、夕凪に到着。みなと通は大きな通りなので、バスも頻繁に走ってはいるのだが、安治川トンネルに行くバスは1本も無い。途中で乗り換えが必要なのである。まずは60系統で境川へ。審判部長ではない。立派な大阪の地名だ(それを言うたら安治川だって年寄だが)。

 境川バス停 16:29 

 境川は大阪ドームのすぐそば。これは4人とも知らなかった。今後、大阪ドームに行く際はバスも選択肢に入れてもいいかもしれない。それくらい近い。阪神戦で混んでる場合なんかは考えてみよう。境川からは短い区間をループしている、通称赤バスに乗車。バス停を見つけるのに苦労したが(路線が違うのでバス停も違う場所にある)、なんとか見つける。すると次のバスが16:35。このバスは30分に1本なので、かなりツイている。この旅は比較的バスのタイミングに恵まれていたが、30分に1本のバスで待ち時間約3分というのは絶妙。喜びも一入である。

 安治川トンネル前バス停 16:46 

 ほどなくして安治川トンネル前に到着。夕凪→境川からの乗り継ぎ扱いで、本日2回目の無料乗車。もうはしゃがない。まあ赤バスは100円なので、得しているのは100円なのだが、運賃なんてあるより無いほうがいいに決まってる。

 バス停から安治川まではすぐ。大きな3階建ての建物が安治川トンネルだ。北側にはすぐに西九条駅があるため、安治川の南側に住む住人は使い勝手が非常に良い様子だ。トンネル内は幅がそう広くなかったが、行き交う人が多くよく使われている様子が窺える。

安治川トンネルエレベータ前
右側に見えるのが階段

 写真は北側だが、南側にはこれと鏡に映したように対称な建物がある。

 前述通り、少し歩いて西九条駅に到着。

 西九条駅 16:58 

 ここからはJRゆめ咲線で終点の桜島へ。この旅唯一のJR移動である……はずだったのだが、ここで首尾よくバスが来る。しかもなんと桜島を通るバス。さらにラッキーなことに、17時ちょうどに出発。待ち時間もわずか、1日乗車券所持者は追加料金一切なし。全員が桜島線に乗った経験があり、どうせならバスにしよう!!と意見がまとまり、結局最後の移動もバスに。

 ただ、唯一とも言っていい弱点が移動時間である。ゆめ咲線は駅数が3駅で所要時間は10分弱。さらに終点の桜島の1駅前はユニバーサルシティ駅。そう、あのUSJの最寄り駅なのである。ということは、JR利用客のニーズを考えると電車の本数が少ないわけがない。ゆえに、どんなに乗り合わせが悪くても15分あれば着く計算である。対して我々が乗っているバスは、バス停の表示によれば約30分。明らかに遅い。何度も言うが、この旅の目的は渡船の乗船である。

 のんびり揺られてバスの旅。このバス、179系統は実は行き先がUSJなのだが、USJに行くためにこのバスに乗っている人は見る限りでは皆無。時間を気にせずゆったり帰りたいUSJ帰りのみなさん、意外とねらい目ですよ!!

 そういうわけで地元住民と一緒に乗るバスは、途中から毎度おなじみ工場地帯を走り、予定通り30分かけて桜島駅に。駅が目的地ではないので、そのまま渡船場まで徒歩。

 天保山渡船場 17:35 

 最後の渡船、天保山に。向こうにはサンタマリアが見えるが、こちらが乗るのは味も素っ気も無い川を渡るためだけの船だ。運航は17:45。10分ほどの待ち合わせである。渡船場で待っている乗客の中には子供連れもおり、これはUSJの帰り道として裏技的に使っているのかと思ったが、荷物がえらい軽そうだったのでおそらく地元の人だろう。それより驚いたのが外国人の数。USJで働いていて仕事が終わったから帰るor天保山に遊びに行く、といった感じの人たちだ。まさかUSJ目当てで海外旅行に来たわけではあるまい(それだったら渡船なんかしないと思う)。最後の船でも、地域密着であることが窺い知れた。

天保山渡船
天保山渡船場

 天保山 17:50 

 天保山到着。これで8つの渡船を全て制覇した。10時集合で終了が18時前。約8時間。これだけかかったのは、寄り道が多すぎたことか。汐見橋にしろ、安治川トンネルにしろ、渡船と何ら関係のないものであることは間違いない。が、コンセプトの根底にあるのが大阪の街に触れることなのだ。寄り道でも結局最後に全部回れたので文句は無い。まあネタ造りに真剣やな、というくらいの感覚で読んでいただければこれ幸い。

 天保山からは寄り道せず、当然海遊館にも行かずに晩飯。でも場所はなぜか中津だった。

 大阪の街がいかにいろいろあるのかを知った。市バスの運転手に怒鳴られたという貴重な体験もした(怒られたわけではないのだが)。1日9回(8渡船、1回だけ往復のため9回扱い)船に乗ることも、1日6回もバスに乗ることも日常生活では滅多にないだろう。特に前者は。

 懸念されていたPiTaPaでの所要金額は、バス6回のうち2回が無料、1回が100円、その他が200円。ということは、トータルで700円。ちなみに1日乗車券は850円。あの鶴町のバス1回分が大きく左右した形だ。なんだ、損してへんやん、と思ったが、家から梅田に行く運賃と天保山から中津に行った分が加算されていないのは内緒である(中津から家まではもう使わないすぐのれに1日乗車券を譲ってもらったため無料)。ご利用は計画的に。


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