第86回
鉄分補給の旅 Vol.3
〜2007 鉄道の日記念企画〜

 さて3日目。予告どおり立山黒部アルペンルートに。しかし外は予想どおりに雨模様。もう慣れた、と言いたいところだが、景色を楽しんでナンボの場所であるアルペンルートが雨なのは正直痛い。ちなみに私はアルペンルートは高校の修学旅行以来12年ぶり2度目。12年前も雨だった。ゆえに雨男である。Q.E.D.

 松本駅  10/8(祝) 6:00 総営業キロ 766.7km

 夜も明けきらぬうちに駅にたどりつき、始発である6:02の電車に乗る。大糸線、目的地はこの電車の行き先である信濃大町駅

朝の松本駅

 朝の6時台だというのに、停まる駅で高校生らしき人が数人乗ってくる。休日だし、平日の朝練というわけではないだろうが、クラブなのだろう。みな揃って大きな鞄を手にしている。若いからか、朝から元気だ。我々は始発から乗っていることもあり席が確保できているためか、電車の揺れに合わせて首を傾け夢見心地。

 信濃大町駅  10/8(祝) 7:01 総営業キロ 801.8km

 約1時間かけて信濃大町駅に到着。行程はついに800kmを突破。長旅だ。

信濃大町駅

 ここからはいよいよアルペンルートとなる。まずはバスで扇沢駅に。時刻表を確認すると、駅から7:10にバスが出るようだ。ただ、驚くことにこのバスは始発ではなく3便。もっと朝早くにアルペンルートに挑んでいる人たちがおる、ということだ。

 バスはしばらくは市内の繁華街、とまでは言わないが商店街のまわりを走っていたが、そのうち急に民家もないような道を走り出した。「アルペン」ルート、というくらいなのだから山のほうにあるのは間違いないのだが。所要時間は40分、運賃は1300円とかなり高額。私はその場でバスチケットを購入したが、実はさんぎょーはここ(というか高崎)に来るのに「アルペンきっぷ」というJRの特急とアルペンルートのチケットが一緒になっておとくな切符を購入して使っていたのである。従ってさんぎょーの方が運賃は割安。この男、こういう金が絡むとまず損はしない。

 扇沢駅  10/8(祝) 7:50 総営業キロ 801.8km

 扇沢到着。激しい雨。松本にいた時よりもさらに激しくなっている。これから山道だというのに…。

外観。雨のため引きの写真が取れず
扇沢駅

 ここでアルペンルートの通しのチケットを購入。次の便が8:00なのだが、それには乗れるようだ。ゴールは山の向こう側の電鉄富山駅。チケットの金額はご覧いただいているとおり、9230円。バス代とあわせると1万円を超えている。維持費もバカにならんだろうから、このくらいは取らないと割に合わないのだろう。

高額チケット

 乗り場に行くと、大量の団体客。個人で1万円以上払って来るような物好きはおらん、ということか。何組ものツアーがごっちゃになっていてそれぞれの添乗員がさかんに統率を取ろうと声をかけている。我々2人は団体行動もツアーも嫌いなので、好き勝手に行動。

 いよいよトロリーバスに乗車。バスは意外と小さく、席の広さも普通のバスより狭い。トンネル内を通る仕様なので大きくできないのだろう。写真を見ると、架線がちゃんとあって電車のように見える。まさにトロリー。

記念撮影をする人も
序盤の一部だけ外を走る

 バスは9両編成。1台が約100人くらい乗ってて、9台がほぼ満席になるということは900人が一遍に乗っているということか。雨だというのにご苦労様です。雨男二人が通りますよ。

 黒部ダム駅  10/8(祝) 8:15 総営業キロ 801.8km

 15分かけて黒部ダム駅に。

黒部ダム駅

 この駅はトンネル内で、トンネルを出るために少し歩く。向こうから歩いてくる人もいるのだが、これは富山側から攻めている人だと思われる。それにしてもこの時間でもう黒部ダムに着いているというのは早すぎるが。

 長いトンネルを抜けると、そこは…雨だった。雨男を相手にして、そんな都合よく雨があがるわけがない。

駅からダムへのトンネル
黒部ダム

 ここからは徒歩なのだが、屋根が無いので傘or合羽が必要。我々は必要最低限の装備しかないので傘は折りたたみ。そもそも上着すら持ってない奴が用意周到に嵩張る傘を持っているわけがない。

 ダム湖の反対側ではちょうど放水がされていたので撮影。ちなみにこちら側は落差が186mとものすごく高い。壁はあるが大した高さではないので下が覗けるのだが、高所恐怖症でもない私でも相当怖い。雨で滑りそうなのがさらに恐怖感を煽る。一度は見ておくべきところだとは思うが、高所恐怖症の方はダム湖側をおとなしく歩くことをおすすめする。

日本一の大瀑布

 雨に濡れながら男が二人フラフラとダムの上を歩く。12年前は確かここでの雨はなかったはずなのだが(記憶がもう曖昧)、それに比べると足元が悪いのなんの。水はけ悪そうな土地柄だし。

 ダムの反対側に行き、ケーブルカーの乗り場である黒部湖駅をめざす。

 黒部湖駅  10/8(祝) 8:32 総営業キロ 801.8km

 ケーブルカー乗り場はすぐにわかったが、次のケーブルカーが8:50とやや時間がある。乗り場は混雑していたが、大半が団体客で、個人客は我々とその他カップルが1組の4人だけ。列も違うようだ。並んでいる場所からして、どうやら個人客は優先的に乗せてくれるらしい。当然の処置。なかなかわかっているようでよろしい。で、列で待っていると駅員と思しき方が黒部の歴史などについて語りだす。観光客相手に、ケーブルを待つ客が来る度に同じようなこと言うてるんやな、ご苦労やな、と思っていたら最後に「そんな歴史をまとめた写真集がここ限定で発売されてます」と宣伝。実に見事だ。当然私は買いませんけど。

 そうこうしているうちにケーブルがやってきた。ここからこれでさらに登って黒部平駅に。いの一番に乗り込むが、全線トンネルであるこのケーブルは見晴らしもへったくれもないのでどこに座っても大差ない。出やすそうな前に陣取る。

黒部湖駅のケーブルカー

 黒部平駅  10/8(祝) 8:55 総営業キロ 801.8km

 黒部平駅到着。駅標に適当なものがなかったのでこの1枚でご勘弁を。

黒部平駅

 次はロープウェイでアルペンルート最大の標高である大観峰駅に向かうことになる。このロープウェイ、環境に配慮して途中に支柱が1本もないという珍しい構造である。やたらと高低差がある上に距離も長いというのに柱の1本もないとは。日本の技術力、恐るべし。ちなみに長さは1.7km。当然、柱の無いロープウェイとしては日本最長。

 ロープウェイの発車時刻は9:10。ここまで来て多々思うが、どうしてスムーズに連絡していないのであろうか。トロリーからケーブルまでも中途半端に時間があるし、ケーブルからロープウェイも約15分。トイレとか年寄りの足腰に考慮しているのだろうか。

 ここでも乗り場は我々が先頭に近いところ。団体客に巻き込まれずに時間を読める(ちゃんと来た時間のものに乗れる)というのは実に喜ばしい。銚子電鉄にノウハウを教えてやりたい。

 ロープウェイが来たようなので乗り場まで行く。確かに車両はあるが、その先の景色が真っ白で何も見えない。雨というより霧のような靄のようなものがかかっているのである。SFの世界に迷い込んだような感覚だ。落ちたらどこか別の世界に飛ばされてしまうのだろうか、そんな気にすらなってくる。乗ってみたところ、多少の景観は見えるのだが、楽しむレベルまで行かない。それほど見通しが悪い。もうこれは雨男の運命だ。受け入れるしかない。景色を見たいがために後日改めて、という気にはならない。

車両の向こうは真っ白
辛うじて紅葉がわかるが…

 大観峰駅  10/8(祝) 9:17 総営業キロ 801.8km

 雨は強くなるばかり。大観峰には土産物屋もあり退屈はしないが、展望台は屋根がなく行く気にもなれない。が、次はトロリーバスで室堂駅まで行くのだが、多少時間があったので傘を片手に行ってみる。結果、

大観峰駅
ご想像にお任せします

 まったく景色なんぞわかりゃしない。案内板には「ここから見える山はこんな名前です」的な説明がわかりやすく書かれているのだが、役に立たない。これを見てわかることと言えば、「ああ、こっちは東なんだな」というくらい。

 土産物屋には焼鳥とか帆立のバター焼とか、なぜここに?と思わせるようなものが置いてあったが、5時半起床の我々にはこの匂いがたまらない。途中でお腹が痛くなるのも嫌だったので結局この手のものは買わなかったが、行った場所が場所なだけに自慢したい一心で一応会社の土産をここで買う。殆んどアリバイ作り。

 トロリーバスの時間が来たので駅に。一度トロリーは乗っているのであまり感動もなし。

 室堂駅  10/8(祝) 9:40 総営業キロ 801.8km

 室堂到着。駅舎すらまともに撮影していない体たらく。

室堂駅

 室堂駅はトロリーバスの駅なので鉄道事業法が適用されるのであるが、その法律で言うところの日本一標高が高い場所にある駅である。が、駅にはそれを誇示するような看板は見当たらなかった(通常の鉄道であればJR小海線の野辺山駅であることはクイズベタ)。

 今度は下りのバスで美女平駅に。ところが、次のバスは10時ちょうど。あと20分ヒマ。

 大観峰以上に見どころがあまりない室堂ではやはりやることが無い。外は激しい雨で合羽を着ている人も多数。そんな天気じゃ外に出る気も皆無だし、先ほどからわかるように「見晴らし」という言葉が似つかわしくない景観と天候。何もやる気が起きずにただ乗り場(「バス停」と言ったほうが正しいか)で待つ。もちろん団体客ではないので個人客として。二人でただただ待つ。それしかない。

 やがてバスが来た。何台も連なっているのは団体客のためだろうか。ここでも列の先頭だった我々は早々に乗り込み席を確保。あとはさっさと出発するだけ。

 バスが動き出した。が、相変わらず何も見えない。このバスの行程は「アルペンルートと言えば!!」という連想ゲームをすれば黒部ダムの次に出てきそうな、雪の壁の間を縫うようにバスが走るあの景色が見られる場所なのであるが、10月初旬では雪もなくあるのは冷たい雨ばかり。霧も増して見通しも悪い。車内ではしきりに周りの景色の紹介やアルペンルートの歴史(ここでもかい)を紹介してはいるが、食傷気味で朝も早かった我々は早々と夢の中。

 美女平駅  10/8(祝) 10:35 総営業キロ 801.8km

 バスは美女平に到着。だいぶ序盤から眠りに着いていたので景観を楽しむこともなかったし、あっという間に着いた感じだ。高い金払ってただの移動手段にしかならないのであるから勿体ないことこの上ない。美女平でも雨は止まず、駅舎を撮ることもしなかった。

 次はケーブルカーで麓の立山駅へ。高低差のある乗り物はこれが最後。名残惜しい気もするが、雨にたたられた行程なだけに、やっと終わる、という気持ちもあった。

 ここではなかなかつなぎがよかった。10:40のケーブルカーに乗る。

美女平駅
ケーブル乗り場案内

 立山駅  10/8(祝) 10:47 総営業キロ 801.8km

 ケーブルを降り、信濃大町以来のようやく町(というほどのものでもないが)らしい場所に。あとはここから富山地方鉄道で電鉄富山駅に行けばアルペンルートのゴールである(立山駅をゴールとする文献もある。どこが正式な拠点か、というのは決まりは無いらしい)。

立山駅

 ここで最後の試練が。次の富山行きの電車が、なんと11:39まで無いということが発覚。外は雨、さらに山ほどではないがやはり寒い。自動販売機でコーヒーを買って暖をとるが、やることの無い、椅子も空いていないところで1時間近くも待つのは本当に苦痛だった。ヒマ潰しでも持ってくればよかったのだが、リュックの中の荷物は大半が前日のおかきの箱という状況。最後の最後にうまくいかない。

 電鉄立山駅  10/8(祝) 11:10 総営業キロ 801.8km

 出発30分前、思いがけず電車が入ってきた。立山は終点なので車内整理を行い、そこから車内に入れることに。ロングシートではなく2人掛けだったので我々は席を確保し落ち着いた。長いアルペンルートの旅もこの電車の終着駅でようやく終わりをむかえるのである。

電鉄立山駅

 出発前に次便のケーブルが来たのか、結構な数の人が電車に乗ってくる。早めに席を確保していたのはどうやら正解で、後のほうに乗ってきた客は席もなく乗車率は100%を超えていた。こんな天気なのに。ちなみに団体客は通常は立山からは観光バスに乗るらしく、電車に乗るのは個人客が多いらしいのだが、となると今までの個人客の少なさと比べてあまりに多いこの乗客はどこから湧いて出てきたのか。

 11:39、定刻通り電車は出た。ここから目的地の電鉄富山まではさらに1時間。途中どうということもない景色を眺め、席を確保できている我々はただ眠るばかりである。途中、分岐の寺田駅を通るがこの電車は電鉄富山駅行なので乗り換える必要もない。宇奈月温泉方面は乗り換えで、それなりの人数がここで降りていった。

 電鉄富山駅  10/8(祝) 12:40 総営業キロ 801.8km

 ついに電鉄富山駅到着。信濃大町から約5時間半かけてのアルペンルートを走破した。

電鉄富山駅

 が、朝が早かったのでまだお昼過ぎ。こうなるとやはり鉄分補給に出かけなければならない。次はどこに行こうか、と論議すると意見が分かれた。さんぎょーはこの日、例の「鉄道の日記念切符」を使わずに松本から信濃大町まで出ていた上、名古屋から例のアルペンきっぷを使っていたため、高山本線経由でそのまま大阪まで戻るのを提案、対する私は記念切符を使っていて既にこの日は乗り放題なので北陸の乗り潰しをしたい、と提案。真っ向から意見が分かれたので、富山からは別行動をとろう、ということになった。富山駅周辺で昼飯を食べ、約1日半もの長い間旅を共にしたさんぎょーと別れた。しかし、それを合図のように天気が回復方面に向かったのは…ある意味必然だろう。

 今回はここまで。次回はいよいよJRに復帰。残った北陸の旅路やいかに。


経費
JR 鉄道の日記念切符 3060
バス 信濃大町→扇沢 1300
その他 立山黒部アルペンルート 9230
小計 13590
3日合計 21680
  
本来の経費
JR 乗車券38.6km分 650
バス 信濃大町→扇沢 1300
その他 立山黒部アルペンルート 9230
小計 11180
3日合計 25280
  
得した分
合計 -2410
減価償却率 [本来の経費] / [経費] 82.2%
3日合計 6010
減価償却率 3日合計 116.6%

注意:JRは全て「営業キロ」で計算しているので、実際の運賃と違う場合があります。
また、3日目はこの段階では松本→信濃大町しか乗っていないので損をしているような計算になっています。


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